Truncated Octahedron/切頂八面体


 


 この折り紙で作った多面体は,切頂八面体と呼ばれるものです.互いに辺の長さが等しい,8個の正六角形と6個の正方形から形成されています(この写真では正方形が穴になっています).結晶学や物性物理学をご存じの方には,体心立方格子のウィグナーザイツセル,あるいは,面心立方格子の第1ブリルアンゾーンと言えば分かりますね.

 この多面体だけで,3次元空間を埋め尽くすことができます.ですので,この写真のように,永遠に積み重ねていくことができます.実は,単体で3次元空間を埋め尽くすことができる多面体は2種類しか存在せず,切頂八面体はその1つです.もう1つは,菱形十二面体です.こちらは,面心立方格子のウィグナーザイツセルですね.

 「 え?立方体や直方体でも3次元空間を埋め尽くすことができるじゃないか?」と思われた方がおられると思います.確かに,三角柱,四角柱(立方体や直方体はこれに含まれる),六角柱でも3次元空間を埋め尽くすことができます.しかし,それはちょっと話が違います.というのは,三角形,四角形,六角形で2次元平面を埋め尽くすことができますので,2次元の時点で話が終わっているわけです.三角柱,四角柱,六角柱というのは,それらに単に1つ軸を追加しただけですので,本質でありません.と言うわけで,切頂八面体と菱形十二面体だけが,本質的に3次元空間を埋め尽くすことができる多面体ということになります.

 ところで,私はこのような幾何学や数学を研究しているわけではありません.しかし,この写真のような無限に規則正しく配列した空間,しかも,そのサイズが1ナノメートルの空間を舞台として,物理学の実験的研究を行っています.「多孔質結晶」の「ゼオライト」を主に使ってこれまでにない新しい物質を合成し,色々な実験手法でその物理を解明する研究を行っています.ちなみに,この写真の切頂八面体の空間充填と同等の構造を持つゼオライトとして,ソーダライトがあります.宝石のラピスラズリや,顔料のウルトラマリンの主成分と言えば,分かる方がおられるかもしれませんね.